空白の書の持ち主たちへ

グリムノーツというゲームがある。

この世界の住人は、みんな生まれながら、「運命の書」を持っている。

赤ずきん」なら「赤ずきん」の運命の書、狼なら狼、おばあさんならおばあさんの「運命」をなぞるように生きていく。

自分の運命を知っていることの葛藤と、それでも運命に従うキャラクター、運命に刃向かうキャラクター、色々いる。

でも、主人公たちは、なんと、その世界で「運命の書」を持たない。

「空白の書」というまっさらなものしかない。

それはこの世界では異端である。

運命を呪うもの、刃向かうものはいるが、道筋のない辛さは、それとは別だ。

この主人公たちは、今の私たちに近いのだと思う。

就活をしていた時に、「もうここに行けって誰か言って欲しい」という呟きを聞いた。

私が言ったのかもしれない。

やりたいことが明確にない人は、誰しも味わったことがある気持ちじゃないだろうか。

真っさらな人生のノート。

それが自由ではなく、空虚なものに見えるかもしれないけど、間違いなく、自由なのである。

ゲームの世界に生きていない、ストーリーテラーがいない私たち。

驚くことに主人公は私だという。

宝くじに当選はしないけど、主人公には選ばれたらしい。

空白の書が怖いなら、どんな運命の書がいいか、描くことから始めたらいいと思う。

自分が神なら、ストーリーテラーなら、監督ならどんな役がいいか、どんな世界がいいか、どんな明日がいいか。

映画「クラウドアトラス」感想 ※ネタバレ有

めっちゃ面白かった!もっと早くに観たかった。

・泣いたのは音楽家の最期

・印象に残ってるのはソープ工場。

一番絶望的な状況ってなんだろう、と考える時がある。

「クローンを働かせ、その死体を食べさせ、栄養源にする。共喰いさせる」というのは、ありがちといえばありがちなのかもしれないけど、普段無表情なクローンたちが、少し嬉しそうな顔で出て行く先の、あの雰囲気。

日本のお話の中の、生贄になる前のお祭りのようなあの感じが良い。

・私がなんでこの映画をずっと見れたかというと、お話が複数あったことと、その時系列が揃っていないこと、語り手が複数いること、そのお話が単純なリンクでないこと(ソンミ神とソンミのお話は「ソンミ」というワードが繋がってるけど、他の話は必ずはリンクしていなかったり)

脳は不条理を無視できない、と聞いたことがあるのだけど、サスペンスをうっかり見だして止まらなくなるのは、「謎」を無視できないんだろう。

・歴史的な背景も面白くて、いつから私たちは序列をおかしいと言えたのだろう。

親に反抗しても後ろ指を指されないようになったのだろう。

同性愛の人が作ったものを正当に評価できるようになったのだろう。

私が結婚より仕事がしたいと言えるのも、好きなファッションが出来ているのも昔の人のおかげだ。

それこそ、大海の中にしずくを落とすようなものが結実した結果なのだろうなと思う。

・最近思うのは、こういう救いのないような(一見だけど)ものの、最後が孤高で終わらないことだ。

私の偏見だけど、今までの映画だと、最後パートナーがいなかったり、悲劇を悲劇のまま終わらせる傾向があった気がする。

でもはじめの語り手のおじいさんの前には孫たちがたくさんいるし、編集のおじいさんも初恋の人と結ばれている。

悲劇がずっと好きだった。

でも「一流のものは日向を向いている(北村薫「空飛ぶ馬シリーズ」)」って本当だと思う。

あとは、世の中が暗い時にアイドルが流行るように、孤高に浸れないくらい世の中のテンションが低いのかもしれん。

・同じ役者さんのいろんな面が見れるのはとても楽しい。いろんなハルベリー、でもどれも美しい。

日本の役者さんでもやって欲しい。

・自分が見殺しにした風景と同じところで、助けてくれたところがとても熱い。実際に助けてくれたこと、自分が出来なかったことをやってくれたこと、二重に救われる気がする。

・未開の地とSFが交差するのもよかった。

・容赦無く人が死んでいく。登場人物はみんな辛いこと、裏切られたことに立ち向かっていく。

その怒りが明快だから、どの組にも揺さぶられてしまう。気持ちが回収できないうちに新たな時空に放り込まれる。

・カットが繋がっている。最後のソンミからの医者のカップルに繋がったのは、生まれ変わりを示唆している。ほれがうるさくなくて良い。

漫画 おかざき真里「&」感想(マイナス意見あり)

おかざき真里の漫画はサプリを途中まで読んだことがあって、面白かったのだけど

 

大きな文字や装丁がちょっとおしゃれすぎて、なのにリアルと言われてもなぁ、と思っていて、少しナメていたところがある。

 

だけど、&にはだいぶリアルさを感じたし、主人公の女の子の、潔癖すぎる面倒だろっていう性格が、ブレず、見ていて良かった。

 

・今自分が恋愛モードじゃないので、まったく恋愛したい♡みたいな気持ちにはならなかった

 

・主人公の女性がダブルワークを始めていて、自分も仕事が好きなので、その感じは見ていて楽しかったし、「中途半端」や「思いつきで起業」は自分を見ているようで少し痛かった笑

 

・舞台は医療の現場で、間借りしているところはプログラマの事務所の下で、職場は3つ描かれている。

詰め込みすぎな気もするけど、リアルな気もする。

 

・病院で働いている人のハードさを思った。なんとか改善されないものか。。。

 

・派遣で働きつつネイルサロンを出す、それが両方長続きしないもので

「持たないものばかり求めようとする」という言葉が印象に残った。

だけど、そういう人の本当の辛さは、グズグズさは描いてなかった気がする。だから、キツイ話ではなかった。

 

・中途半端と言われながらも、がんばる女性を描くことで、同じような状況の人の良いサンプルを作ろうとしたのかもしれない。

でも、キツイところも描かないと、一度刺して抉って晒し上げてからでないと、救えないような気もする。

 

・最後が感傷的過ぎないのに、きちんと「こういう気持ちってあるな」「こういう展開ってあるな」と思わせつつ、演出があってよかった。

 

サプリで「大きい文字がちょっとな」

と思ったみたいに、演出ってさじ加減が難しい。やり過ぎると、見ている人まで恥ずかしい。でも、ここぞ!というところはやり切って欲しい。見栄を切ってほしい。

 

・ドラマ「カルテット」でもそうだけど、「今までドラマや映画で取り上げられなかったけど、現代の人々が誰しも通る出来事、感情」を見つけ出すか

小説「夫のちんぽが入らない」のように「誰も体験していないことをリッチに描く」くらいのことをされると、私は感動してしまう。

なんでだろうと思うと、それは注意深く世の中を見てないと描けないからかもしれない。

無意識に作り手のそういう「努力」を測って、それに足るか、を判断しているところはきっとある。

我ながらつまらない見方な気もするけれど。

 

・はじめにおかざき真里をナメてると書いたけど、まだナメているかもしれない。私には少し綺麗すぎると感じてしまっているような。。。

映画「怒り」感想

・私はどの人も「何かしらの事件の犯人」だと思っていたのだけど

そうではなく、この組の誰かが犯人ですよ、という見せ方で

観ている側も「この人犯人なんじゃないか」と考えられながら見れるのが楽しかった。

 

綾野剛BLがいいぞ、と聞いていたのだけど、

私はそこまで萌えなかったけど笑

綾野剛さんも妻夫木さんもリアルに演じられていた。

(本当のリアルな世界、そんなに知らないけど)

綾野剛さんは最近、男性らしい男性を演じることが多いけど、

私が初めて綾野剛さんの演技を観た「クレオパトラな女たち」でも

ゲイの男性を演じていて。

そう言えばあの時めっちゃ萌えたのを思い出した。

本当に良いので観て欲しい…huluで配信しているぽい。

 

綾野剛さんのなで型、自信のないような目線、

あまり感情が出ない顔は素晴らしかった。

それでいて、言う時はハッキリ言うところは魅力的で、

妻夫木さん演じる役柄同様に、

「犯人かもしれない」と思いながら惹かれてしまう。

 

宮崎あおいさんもよかったし

池脇千鶴さんのリアルさがよかったけど、

やっぱり森山未來がすごかった。

上手く言えないけどすごかった。

 

・当たり前だけど、私には殺人犯の気持ちがわからない。

無関係な人を本気で殺したいとも思わないし、

どうしても相手の気持ちを考えてしまう。

(いいことだと思うんだけど)

難しい、わからん。

 

広瀬すずさんはそこまで激しい演技をしていなくて

「役柄普通だな~」と考えてしまうけど

「本気は人には見えない」と言うセリフに

ハッとなって、運命に翻弄される彼女がどう思ってるのか

考えてしまう。

そして、広瀬すずさんの顔の美しさはやっぱり凄い。

 

正直、相手役の男の子は

「悪意があるのか?」と思ってしまうほど

見た目に差があるな、というのは正直な感想

 

・予告を見た時から

「豪華キャストってもんじゃねえな」と思ってはいたけど

キャストとしても、質として3本の映画が入っているようなもんだよね。

 

3組の、6人の気持ちを推し量ろうとするけど、

どれも不安定だし、疑いながら見るので、

目がどんどん曇る。

その中で物語を見つめる。

 

・でも話自体は割とシンプルというか

わかりやすい「怒り」の話なのかな

綾野剛は、妻夫木さんは、宮崎あおいは何に怒っていたのかな

 

渡辺謙宮崎あおいさんの話は、

カップル描写が微笑ましいし、

親子の関係の描き方もすごく好きだけど

犯人じゃない、とわかった時に

「そんなに泣くかな・・・」とも思ってしまった

面白い話は、構成よりキャラクター

面白い話かどうかって、

「キャラクターを好きになれるかどうか」

なんじゃないかと思う。

私の好きな話は、

出てくる人たちが、優しかったり、心がキレイだったり、信念があったりする。そういう人たちの努力は見ていて楽しい。

自分勝手だったり、頑固だったりもするけど、憎めない。

展開が予想を裏切るものかどうか、というのもあるけど、すべてのドラマや映画、漫画がそこを目指した結果、出尽くしたような気がしている。

トーリーがシンプルになるなら、キャラクターで魅せていかなくちゃ、という話なのかもしれない。

面白い話も、面白くない話も、どちらも結局は嘘。

面白い話は「出来る営業マンの営業トーク」みたいに、楽しくテンポよくいい気分で聞けて、

面白くない話は「使い古された誰かの言い訳や愚痴」のように、つまらないオチが見えて退屈なのかもしれない。

最近、お話を読む機会が多くて、面白い話とそうでないものは何が違うのか、と考えていたので忘備録としてかきます。

映画「Sing street」感想

・無理なアップダウンがない

・キャラクターがリアル

・マネージャーの男の子が好みすぎる

・主役の男の子がすぐ泣くところがなんか良い

・校長が容赦なく最低なのが良い

・感情移入するなら、年齢的にお兄さんにするべきなんだけど、やっぱり主役のコナーにしてしまって、勇気づけられてしまう笑

・曲がいい

・歌詞がいい。曲への思いが、彼女への思いが良い

・エイリムがいい。エイリムの母もいいし、ウサギも良いし、タバコ部屋もいい。

・チャリ取られたりするけど、すぐ取り返しに行ったり、そういう若いサクサクさが見ていていい。

高校生が彼女を振り向かせたいためにバンドを組んで学校に反抗して、新天地を目指すという、わりとよくある青春映画ではあるけど、

まとわりつく親の愛情や、兄弟への愛情や、2人のキスシーンとか、バンド内の友情の描き方がリアル過ぎずファンタジー過ぎず、ちょうどよく丁寧に描かれていた。

「映像美」と謳われていたけど、やり過ぎたデザインもカットもなくて、すごく温度感が良かった。

今の映画って、すべての伏線を回収し、すべてのキャラクターに意味を持たせ、ということが多くて。

Sing streetではバンドメンバー全員とケンカもしないし仲直りもしない。

コナーはマネージャーの子か、エイリムか、兄にしか相談をしない。

そこが、バンドヒストリーのようでリアルなのかもしれない。

市川崑物語もそうだけど、ものづくりの裏側って面白い。

でも、不良ばかりの高校の中でのバンド活動は、きっと誰にとっても救いになったんだろうなと、見ていて思う。

映画 市川崑物語 感想

文字と写真と、市川崑作品の動画で進んでいってちょっと面食らった。

でも、ナレーション文が面白くて何度もククッてなった。

岩井俊二さんが市川崑さんに対して

「話が合うのは当たり前」

「この人は自分のオリジナルだ、その人と今会っている」

というセリフが何だかぞっとした。

私たちは生まれて来る父と母の

通常、父と母の遺伝子を受け継いでいるわけだけど、それ以外の影響を受けること、誰かのなにかに反応して、震えて、それが核をなすこと。

ナレーションは岩井俊二さんの素直な人柄が出ていて、茶目っ気があったのだけど、それも市川崑さんの影響があるのかもしれない。

市川崑さんの描く女性の美しさを讃えると同時に、男性が「頼りなくて、お坊ちゃんで、ふわふわしていて、どこか天使のよう」というナレーションも印象に残っているし、そういうキャラクターをつけられる市川崑さんの映画もいいと思った。

犬神家の一族の説明も「犯人は大体熟女系」とか、そういうものにいちいちウケた。

犬神家の一族、黒い10人の女も観てみたい。