H眼科の話

瞼がピクピクと痙攣しはじめたので、眼精疲労だ、、、と気休めに、目の疲れを癒すトレーニングをする。

親指を立てて見つめる。

腕を伸ばし、遠くになった親指を見つめる。

最後に指の向こうの、遠く、遠くを見る、、、

「遠く、もっと遠く、、、」

そう言うのは、地元の眼科の先生だ。

高校の時から通っている眼科。

初めて通った時に、長い時間待たされ、視力検査を何度もやられ、馬鹿にされたと思い、泣いてしまったという恥ずかしい思い出がある。

そんな迷惑をかけたというせいか、看護師さんたちがフランクなせいか、先生がだいぶお年を召されているせいか、親戚の家のような雰囲気の眼科だった。

先生がおじいちゃんならば、診察道具も古かった。

机にはカルテだかなんだかが散らばり、その横のアルミの棚の上には、理科室のように漏斗やらなんやらが並んでいる。

何が入っているのかわからないガラス瓶の隙間には「眼科だから」と貰ったのだろうか、フクロウのマスコットがたくさんあった。

おじいちゃん先生に似ているな、と思わせるものもあった。

いざ診察の時には、左手にライトを、右手に定規を持ち、右、右下、と見る場所を指示され、

最後には「遠く、遠く、、、」と、

遠くを見るように言われるのが常だった。

先生の背後には、おそらく子どもの患者の時に使うのだろう、NOVAウサギが置いてあり、私はぼやけた視界で、NOVAウサギのそのまた後ろを、見ようと努力したのだった。

先日、久しぶりにタイミングが合い、その眼科に行くと、先生の息子さんが眼科を継いでいた。

泣いた私を見て「えー!?どうしたの〜!?」と話しかけてきたお姉さんも、

「つばさちゃんがもう社会人!?」と本当に親戚のお姉さんみたいに話しかけてきたお姉さんも、

常にブスっとしていて、視力検査が無駄にぶっきらぼうなお姉さんもいなくなっていた。

その眼科は、明らかに労働基準法を破っていたと思うのだが、押し寄せる患者を断らず、どんどん詰め込み、私の診察時間が23時を過ぎることもザラだった。

「自転車で帰れるので」と、

私と先生とお姉さんだけで診察する。

私しかいないので、必要のないところは灯りを灯してある。

薄暗い中、3人ぽっち。

お姉さんはいつだって緊張感がないが、輪をかけてのんびりしているようだったし、可愛がられる私は心地よかった。先生は、おじいちゃんだが、頭はハッキリしていて、楽しく雑談した記憶がある。

先生の息子さんは、先生に似ているところが全くなかった。

他の眼科と同じような、無駄のない診察をしてくれた。

怪しいガラス瓶も、フクロウのマスコットも、お姉さんたちもいなくなっていた。